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『優しさの素材感』

 このプランを考えるにあたって第一に考えたことは、『家族の笑顔が見えること』。普段の何気ない生活行為が繰り広げられるこの空間のどこにいても、何をしていても、三人が笑顔でいられ、尚かつその笑顔が映える、そんな空間になるように考えた。
 そのための一つのキーワードとして、「素材感」をあげてみた。全体的にはミニマルな納まりとし、すっきりと、重苦しくない雰囲気にしたいのだが、薄い色ばかりだと軽くなりすぎるため、濃いめの色のコーディネートとした。素材が生きる空間とすることにより、確かさ、本物といったイメージに加えて、素朴さ、優しさ、暖かさをも合わせ持った空間としていきたい。
 大型マンションの一階に位置するこの部屋の玄関をくぐると、(そう「くぐる」といった表現が正しい)黒と白の空間が現れる。黒は床のタイルを指し、白は左官仕上げの壁を示す。『黒と白』といってもこの空間は冷たい感じはしない。左側には二枚の板がぶら下がっており(この板は引戸になっていて、洗面室、トイレの入口である)、それは暖かみのあるレンガ色に近い赤色で塗られている。そして、『白』の壁もよく見ると左官のコテの痕が残り、そこに人間の手のぬくもりがそこはかとなく感じられる。廊下の正面はグレーペンガラスの扉があり、向こう側の様子がなんとなく見え隠れしている。それらが冷たく感じない理由だ。
 廊下の右側を見てみると、玄関に一番近い部分に壁面収納があり、内部はシューズボックスになっている。棚板はすべて可動棚になっており、一部には傘入れなども考えられているので、玄関に靴が散らかることもないだろう。奥行きも内部有効で350mm強と使いやすいサイズである。シューズボックスの左には白い壁と同化した扉があり、納戸へ入ることができる。納戸の中は既存のタンスが入れられ、またステンレスパイプが効率的に配置され、より多くの収納量を確保している。
 廊下の赤い引戸を開けよう。一枚目の引戸を入ると洗面脱衣室である。床と壁は白いモザイクタイルで仕上げられ、清潔感が漂う。洗面カウンターも同じモザイクタイルで仕上げられ、カウンターの下はオープンになっており、決して大きくない空間で圧迫感がないように配慮されている。洗面カウンターの正面は全面タペストリーガラスで、一部が鏡加工される。ガラスの向こうはトイレであり、このガラスによって、2つの部屋で光を共有することができる。トイレ空間も同じくモザイクタイルで仕上げられ、洗面脱衣室とトイレは、仕切られてはいるが、一つの空間として認識される。
 廊下の突き当たり、グレーペンガラスの扉を開けると、ダイニングに出る。すぐ右側はキッチンで、ダイニングの壁面(食器棚)とL字型のかたまりとして一体感を持たせている。ダイニングテーブルも食器棚と同じ面材が使用され、一体感をなす。ダイニングテーブルの向こうには緑色の引戸があり、これは子供部屋への入口となる。ドアの横には750x750の小窓があり、空間として、家族としての一体感を強調している。ダイニングから、ピアノコーナーを経てリビングへと続く。リビングの周囲の床は玄関、廊下から続いている黒いタイルで、赤みを帯びたフローリングと合わせて、大人な雰囲気を出している。いかにもジャジーな空間ではないか。テレビの左側には大きな引戸があり、内部は納戸になっているが、このリビングが主寝室も兼ねているため、納戸の下部にはベッドが収納されている。夜は、この引戸を目一杯開けることにより、ダイニングとの仕切りとなり、独立した寝室が出来上がる。
 リビングやダイニングの収納扉はシナ合板を使っているが、白く着色し、木目の存在感を薄め、フローリングと合わせても喧嘩しないように配慮されているが木目はまったく消されたわけではないので、優しさがにじみ出てくる。
 すべては、『優しさ』のための素材選び、プランニング、コーディネートを心掛けている。そしてこの空間では、家族三人が様々な笑顔を見せてくれることだろう。